Already Free感想・その3

Already Free感想・その1でもAlready Free感想・その2でも、実際大した感想は書いてないな俺。あれから一ヶ月経って、少しは感じ方も変わったのかどうかってことで書いてみる。

デレク・トラックス・バンド(以下DTB)のレビューをあちこちで見るんだが、デレク・トラックス本人のギターの技術にしか言及されていない文章を見るととても悔しい。*1こんなにノビシロを感じさせるいいバンドはないのに。確かに名前はデレク・トラックス個人のバンドであるかのようだが、そんなものは聞く人が聞けばすぐ分かるだろう。かつての、「Songlines」以前のDTBが志向していたようなジョン・スペンサーのバンドとは明らかに違ってきている。

もう一度、前作「Songlines」の時に持ったDTBへの斬新な印象を思い出す。DTBが、サザン・ロックとかブルースとかジャムバンドという、腹の立つおっさんのような括り方を一度すべて無にしてしまうような気がしたのだった。無にした上で未来につながるっていうイメージ。ソウルからブルーグラスまで全部のアメリカ音楽のジャンルをひとまず無効にして、その上で僕たちDTBはこうやりますよという、「なんとかとなんとかの融合」とかいうくだらない足し算ではないなっていう、まあ本当にお見事な音楽をやってらっしゃいますねと感じたのだった。そんで来日公演見たんだわ。初めて日本の地で出した一発目のスライドの音が強く印象に残ったことは確かだが、やっぱりデレク本人よりも、僕はバンド全体が醸し出す痛さとか若さとか、「いっちょやってやる」っていう先走った気合いや「ジャパンはどうやねん」っていう様子見や諸々を含めて、ああこのバンドは見続けて行きたいなって思ったのだった。

…なんてな。もう思い出話かよ。「Already Free」の話しよう。

一番大きかったのはなんといってもギターマガジンのデレクのインタビューか。ボブ・ディランの「Down in the Flood」をなんでカバーしたかって話で、マネージャーがカバー曲のリスト持って来た中にあったんだよねーと軽く話してた。あと話の分量からして、今作はやっぱDoyle Bramhall IIがデカイのだろう。例えば以前、「Joyful Noise」の時にSolomon Burkeと、「Soul Serenade」の時にグレッグ・オールマンと一緒にやってたんだが、いやあどちらもホントに感動的な曲だったんだけど、まだあの辺りの盤はそれこそ「足し算」でしかなかったような気がするのだが、Doyle Bramhall IIの場合は全然そんな気がしない。なんでだろうなあそんなに相性がいいのかなあと考えていたんだが、やはりバンド全体が進化した、なじんだってことじゃないかと思う。キーボードのKofiがあんまり手癖でフレーズを弾かなくなったり、ドラムのYonricoやパーカッションのM'Butuあたりがアフリカ的要素を最小限に抑えていたり…まあまあ、ある意味で前作「Songlines」が打ち上げ花火であったわけだから、今回はよりスタジオで「さあジャムるっぺ」ってやった音に近づいてるんだろう。バンドのセルフプロデュースだしな。

前のエントリーの繰り返しになっちゃうけど、極めつけはやっぱりヴォーカルのマイク・マティソン。これは譲れない。何度でも書くよ。「Sweet Inspiration」でのバンドの皆さんの解釈を繰り返し聞いて辿ってみると、今作のひとつの境地はこの曲にあるのかもしれんと思った。

*1:それからデレク嫁を過大評価し過ぎてる気もするんだよねえ