止められない止まらない

ヒップホップ・ジェネレーション 「スタイル」で世界を変えた若者たちの物語

ヒップホップ・ジェネレーション 「スタイル」で世界を変えた若者たちの物語

この書籍を手に取った時と、読み終えた時に感じたコストパフォーマンスの違いがあまりにも大きくて今でも驚いている。とにかく分厚い本で、価格はそれなりにお高い本である。とはいっても音楽本でカサを増やすことなど簡単なことであって、著名な音楽ライターを筆頭に著名でもない音楽ライターを多数使って、『○○CD完全レビュー』でもタイトル付ければよい。そういうカサの増やし方で出版された音楽本をいろいろ体験しているから、この本の分厚さにだって最初は疑ってかかった。音楽本なんてまず売れるわけがない。特に翻訳本なんて大変だ。版元のリットーさんはどういう考えでやってるのかは知らないけれども、日本語版を出版するということは、編集者か翻訳者の愛情と、多少の版元の金銭的な余裕がうまいこと噛み合うってことに賭けるしかない。そしてこの本は、本当にうまく噛み合ってよかったと思う。考えてみりゃ好きな人は原書で読むほどの本だし、訳して大きく外しはしませんよっていう固いところだったのかもしれないが。

この本は、1970年代のヒップホップカルチャー発祥から2001年までの歴史を総括している…と言うと普通なんだなこれが。今『カルチャー』って書いたんだけど日本語で言ったら文化であって、その文化を総括しようとしたら並大抵の仕事ではないことが分かろうというもの。本書が焦点をあてているのはもちろん音楽だけの話ではない。ヒップホップの4大要素(DJ、ラップ、Bボーイング、グラフィティ)が当時の政治的状況と相俟って、どのようにブロンクスの外側に出て、グローバルなビジネスとなっていったか、その過程を膨大な文献とインタビューをもとにして本当に細かく追っている。

ずいぶん昔にシンゴ02がレビューしていて、改めてこの人の文才には惚れ惚れしますなあ。

以下が本書の目次。あまりに感動したので、ちょっとこれから章ごとに感想文でも書いてみようかなと思った次第でして。

LOOP1 バビロンは燃えている

Babylon Is Burning 1968-1977

序文 DJクール・ハーク
プレリュード
第二章 シプル・アウト・デー

ジャマイカのルーツ世代と文化的変化

LOOP2 プラネット・ロック

Planet Rock 1975-1986

第四章 名を成した男

DJクール・ハークはいかにしてジャマイカ訛りを直し、ヒップホップを生み出したか

第六章 フューリアス・スタイル

七マイルの中で進化するスタイル

第七章 世界は俺たちのもの

生き残り、変貌したブロンクス・スタイル

第八章 爆発寸前のズールーたち

アップタウンのヒップホップと、ダウンタウンロッカーズ・シーンの邂逅

LOOP3 ザ・メッセージ

THe Message 1984-1992

第九章 一九八二年

レーガン時代のアメリカの狂喜

第一〇章 イノセントな時代の終焉

オールド・スクールの衰退

第一一章 崩れゆく絆

ポスト公民権運動時代の幕開け

第一二章 若者の主張

一九八〇年代後半ーーブラック・サバービア、人種分離、そしてユートピア

第一三章 時流に乗れ

公民権成立後、誰が黒人の指導的立場を務めるのか?

第一四章 カルチャー・アサシン

地理、世代、そしてギャングスタ・ラップ

LOOP4 ステイクス・イズ・ハイ

Stakes Is High 1992-2001

第一五章 真の敵

アイス・キューブの文化的暴動ーー『Death Certificate』

第一六章 混乱を乗り越えて

ロサンゼルスーー和平、そして暴動

第一七章 同じ境遇のもとで

青少年の弾圧と、団結を目指した取り組み

第一八章 ヒップホップ世代の形成

『ソース』とラップ業界、メインストリームへのクロスオーヴァー

第一九章 新世界秩序

二〇世紀の終わりに発達した国際化、封じ込め政策、反体制文化