Mel Waiters

Material Things

Material Things

レゲエのワンドロップをどう説明するか。合衆国産のR&Bをカバーしていたロックステディから、暑いせいかさらにテンポを落としていったところ、小節が倍になったのだよ、という説明はよく聞く。その通りでいいんだろうけど、ただワンドロップの感覚というのはジャマイカのオリジナルではないかも、と思わせるのは、合衆国の8分の6拍子のR&Bの感覚である。これは極めてワンドロップに近い。合衆国産黒人音楽の大発明は、ひとつは12小節のブルースのパターン、そしてもうひとつは8分の6拍子のブルース/R&Bであろうと思う。もっとあるかもしれないけれど。

んで、こういうハチロクの曲はもちろんジャマイカでも演奏されていたんだが、どういうわけだか淘汰されていく。12小節のブルースの曲も。ファンクネスという言葉を借りるなら、全く異なるファンクネスの道筋を歩むことになったのがジャマイカなのである、と。まあここまではいい。でもその理由は、多分ラスタの思想とおおいに関連しているんだろうけど、それよりももっと具体的な、機材とか気候とか、そういうきっかけがあったんじゃなかろうか。まあそれは別の話として。

そんでジャマイカの音楽史と並行してR&Bなりソウルなりを聞いていると、合衆国もジャマイカもある瞬間から一気に電化する。エレクトリファイというのかね、ドラムマシーンとシンセの登場で一気に変わる、はずなんだよなあと思って聞いていた。ジャマイカでは言うまでもなくスレンテンなんだが、ではこれにあたる合衆国のそれってなんだろうと探していたら、これか、Mel Waitersだった。

80年代って、もはやどうしようもないほど音楽は産業化していたために、メジャーレーベルの最先端の録音技術に追いつくには、ずばりカネが必要になってしまった時代だと思う。90年代に入るとアプリケーションが発達したために、打ち込み系の音楽にはそれほど差はなくなってくるかもしれないが、純粋にアイデアの差は生じる、のかな。いや現場レベルで言うなら、さらにさらに差がついちゃっていたのかもしれない。

で、Mel Waitersのようなどマイナーなソウルシンガーは、独立系のレーベルに追いやられて、今で言うところの宅録を余儀なくされるようになったんだと思う。つまり、国は違っても、機材の品質はほぼ同じ、録音技術のアイデアでは、合衆国のど田舎よりもジャマイカの方が上かもしれない。と、まあそういう状況で録音されたであろうMel Waitersのソウルってのがまあもうね、最高だっていう話です。

うだうだ書きましたが、2007年の以下の動画を見れば、うん、やはり音楽的にはジャマイカン的な人なんだろなあと想像を働かしてしまうわけです。ほんと素晴らしい。