I'm Coming Homeという曲の話

Clifton Chenierの「I'm Coming Home」という曲は、ザディコ・アンセムって勝手に呼んでるんだが、特にChenier家やその一族、一門にとってはとても大事で特別な曲がある。で、今までこの曲はずっとサム・クックのヒット曲「Bring it On Home to me」にインスパイアされた曲だとばかり思ってたんだよ。ところがさっきElmore Jamesの「Goodbye Baby」って曲を聞いたらクリソツなんだよ。コード進行も歌詞も。ああそうだったのかなあと思った。

クレジット的にはGoodbye Babyは1955年で、I'm Coming Homeはよく分からんが60年代前半、サム・クックのは1962年。ただこれ、どちらの曲も古いゴスペルのメロディを使ったということになってて、歌詞の類似で言ったらやっぱりBring it on Home to meの方に近い、とかなんとか考えてもしょうがない。この辺の歌ってのは囚人や鉄道労働者がどんどん替え歌を作って増殖させていった類いの曲だろう。それにしてもこのシンメトリー。つまり原曲がきっとそういう歌なんだろね。

エルモア・ジェームスが「さよならベイビー」
サム・クックが「俺んとこに戻っておいで」
クリフトン・シェニエが「お前んとこに戻って来たよ」

エルモア・ジェームスは1919年ミシシッピ州、クリフトンは1925年のルイジアナ州、サム・クックは31年のミシシッピ州生まれということだから、この生年が本当だとしたらちょうど6歳ずつ離れている。言うまでもなく一番売れたのはサム・クックの曲で、それをクリフトンが改造したという説は一番ありそうなんだけど、でも本当は、エルモアの方で知ってた可能性も十分にあると思うんだわ。

どうもねえ、これら一群の曲がゴスペルに由来しているとかいう話はホントどうでもよくって、そのメロディがこの三者のレパートリーとなるまで広がって行った過程にアメリカ音楽の本質がある。正確に言うと戦前から戦後にかけて、ミシシッピ川沿いのエグイ地域でデルタブルースっていう形で現れた一連の曲やムーヴメントがゴスペルやブルーグラスと相互に連携しながら、あちこち旅をして途中エルヴィス・プレスリーというインフレを起こしつつ、60年代のソウルにまで到達したところで、サム・クックのようなビッグスターに歌われて、その瞬間に白人ミュージシャンに「発見」されて、ずるっとロックとして広がってくわけだが、その一方では南西部方面、つまりルイジアナやテキサスといった方面にもデルタブルースの波紋は広がっていって、ザディコに影響を与えたり、サンアントニオの天才少年ダグ・サームやキチガイ少年ロッキー・エリクソンの心を捉えたりしたのだなあ〜と思うとホント楽しい。一人世界の車窓からごっこである。