Ashford & Simpson

音楽と一口に言っても、主流、傍流、三角州、霞堤、魚道、扇状地天井川、感潮区間*1とある中で、ソウルミュージックの主流であるモータウンなんて取り上げても、半可通を自認する自分が他の詳しい方よりも面白いとは思えないし、そもそもモータウンというのは嫌いなんです。

モータウンつーたら、日本で言うところの電通、吉本、ジャニーズ、avexトヨタ読売巨人軍自民党、山口組といったところであり、一般的にはスプリームスのイメージであり、映画『ドリームガールズ』のような、仕掛けという名の贈賄と脅迫とバーターでもってふんぞり返っている魑魅魍魎どもがいる世界である、なんつって。結局、そういうイメージが集約されるのは社長のベリー・ゴーディただ1人である。例えばホーランド=ドジャー=ホーランドが印税で訴訟起こしていたとかいうのを見ると、やっぱり社長はん、あんたが全部搾取しとったんやなあ〜という思いは強くなる。それと言うのも、ベリー・ゴーディはフォードの自動車工場で働いて、大量生産方式にアイデアを得たというのだから本物やで。でいま検索したらここがすごく面白いので今から読む。それからキャロル・ケイ(Carol Kaye)という女性の、しかも白人のベーシストの話なんかもここにまとまっている。すごく面白いので今から読む。

とと、いやあ、気が引ける。実はアシュフォード&シンプソンのことを書こうとしてモータウンの話をマクラに持って来たんですが、やっぱり音楽のことを面白く書ける人っていっぱいいるし、いろんな楽しみ方があるんですよね。自分の文章が情けなくなってきます。でもまあとにかく続ける。Ashford & Simpson最高。


旦那のニック・アシュフォードはサウスカロライナ生まれのミシガン育ち、かなりド田舎者のようだ。大学中退後に64ドル持ってハーレムにやってきて、一文無しのホームレスにまでなったことがあるっつーナイスガイ。一方のヴァレリー・シンプソンはニューヨークッ子。ハーレムの教会で子供の頃から唄っていた。二人は1964年に出会ってから、まずレイ・チャールズの「Let's go get stoned」を書く。日本語に訳せば「マリファナやろうぜ」ってくらいのストレートな曲。ここから彼ら二人がスタートしてるっていうこと、まずこのことが僕は素晴らしいと思うんです。ゴスペル仕込みと言うよりはゴスペルそのもののシンプソンがポップスの世界で輝きたいと思った時に、風来坊みたいなアシュフォードが当て込んだ歌詞が「マリファナやろうぜ」、というわけで初っぱなから完全にR&Bの世界へ振り切れてるわけだ。

この曲は、ヘロインで更正施設にいたレイ・チャールズが出て来て一発目の曲で、1966年にR&Bのナンバーワンヒットとなる。レイの中でもかなりの名曲だと思う。ド頭からの「Let's go get stoned」のリフレインも、ブリッジの頭の「Ain't no harm」というラインも、もちろんブリブリなテンポも、皮肉が効いてる。

このヒットの後、アシュフォード&シンプソンはモータウンのスタッフライターとなり、1973年までここで数々の名曲を作る。中でもマーヴィン・ゲイとタミ・テレルのデュエットの一連の曲はほとんど彼ら二人が手がけた。大体こんな感じで↓

この動画は心底すごいと思った。旋律に戦慄が走ったわい。

正直言うと、この辺の楽曲が立て続けに大ヒットしたのは、もちろんアシュフォード&シンプソンだけの力ではなく、天下のモータウンが節操なくマーヴィン・ゲイとタミ・テレルを売り出した結果だと思っている。ところがこうして二人がピアノ弾き語りで唄うと、純粋に楽曲そのものが愛されているんだなっていうファンタジーが広がる。

しかもこの二人、実に楽曲を愛しているんだなっていうファンタジーも広がるわけだ。当然お二人は、R&Bの虚実織り交ぜた世界をご存知なのだろう。夫婦仲はよいことで知られているが、例えば宇崎竜童と阿木燿子が、もっと脱線すれば榊原郁恵と渡辺徹がテレビに登場したとして、ここまでのネチネチした情愛を見せられるだろうか?

1973年から1981年まではワーナーに移籍。80年代はキャピトルへ。いずれの時代も生き残った。二人の名義による最大のヒット曲「Solid」は1984年の作品。ひとつの頂点であったとも言える。

しかし、さすがにジャム&ルイスの時代になると売れ行きも悪くなってくる。このあたり、結構70年代からの生え抜きのアーティストやコンポーザーにはありがちな「よく聞く話」なんだが、個人的にはとても不思議なのだ。モータウンから始まりフィリーな感じもやってディスコもファンクも取り入れてきた人たちが、まるで地殻変動でも起こったかのようにジャム&ルイスの時代に業界の顔ぶれがガラっと変わった事実を見ると、一体なにがあったんだろうかと考えたくなる。80年代後半からじわじわときたニュージャックスィングの波に、どうしてついていけなかった、あるいはついていかなかったんだろう?またいつか考えてみたい。

ついでにもう一つ。ヴァレリー・シンプソンは非常に優れたシンガーでもあることは間違いないんだけど、世界は広い、業界は狭いけど高い。この音楽の才能に恵まれたカワイイ女性よりも、はるかに優れたシンガーだらけだってことが分かるのがこの動画。

素晴らしい。ホイットニーが(笑)。本当にすごいシンガーなんだなあ、あと、アル・ジャロウの方はこれちょっとタイプが違うので勘弁してあげてほしい。

*1:河川用語集からパクりました