「In the pines」を調べてみた

"In the Pines" は、"Black Girl"とか"Where Did You Sleep Last Night?"とも呼ばれるトラディショナルなアメリカンフォークソングで、多分1870年代頃にアパラチアの南部でできたメロディじゃないかと言われている。作曲者は不明。ただし、歌詞にはめっちゃくちゃたくさんのバリエーションがある唄だ。

最初にこの曲が印刷されたのは1917年、セシル・シャープっていう戦前フォークリバイバルの仕掛人みたいな学者がまとめた曲集の中に入ってる。1925年にはフォークソングのコレクターが替え歌として"The Longest Train" の入ったほうの歌詞で吹き込んでいる。こっちの替え歌の歌詞には"Joe Brown's coal mine"とか"the Georgia line"っていうスタンザが出てきて、炭鉱ブームであった1870年代当時のジョージア州知事Joseph E. Brownに絡めた歌として、恐らく労働者連中に実際に歌い継がれていたってことだろう。この歌には「In the pines」で始まるコーラス、「長い列車」の話、それともうひとつ、「列車が首をはねた」という部分もあったんだが、後のバージョンでは端折られがちになる。

「列車が首をはねた」とはちょっと穏やかではないのだが、元々この歌のモチーフは暗い。どうも南北戦争後のあたりに、ジョージアで兵士が女の子をレイプしたとかいう話がモチーフになってるらしい。服を脱がされて恥ずかしくって松林に逃げ込んだっていう、まあこれは後付けの想像だと思うけど。pinesってのは松林のことだと思うんだが、冷たい風が吹いたらワッサワッサと揺れるっていうサマは、黒人をリンチしてた南部では、なかなか暗い心象風景を思い起こさせる。

だからレッドベリーの曲調ははっきりと哀しいわけだ。歌詞については分からないが、恐らくレッドベリーのメロディが炭坑労働者が唄ってたそれに最も近い「正調じょんから節」なのだろう。

そして炭坑労働者(もちろん黒人が多いわけで)が唄い出した時に、pinesとcole mineとか、Georgia linesのlong trainの客車がat nineに着くとか、韻ともダジャレとも言える歌詞になって整理され、フォークソングとして定着したって感じだろうねきっと。

1925年以降、実にさまざまなフォーク、ブルーグラスのバンドがこの曲を演奏した。1970年に調べたら160曲もヴァリエーションがあったとか。ビル・モンローがカバーしたヴァージョンは、その後ブルーグラスでこの曲を演奏する場合の基本となった。ビル・モンローのはなかったので、ここではルーヴィンBros.のバージョンを貼っときます。

その流儀に大胆な味付けをしたのが、Jerry Reed。このエントリーは以下の動画を貼るために書きました。もともと古典とはいえ大ネタというよりは前座噺って感じの曲だが、どうすかこのアレンジすげえな。コレに関しては談志か志ん朝ってところだろう。かっけえ、I'm gonna pick NOW!

1993年のNirvanaのカバーが有名だけど、カート・コバーンはこの曲をレッドベリーの演奏にインスピレーションを受けているのではないかと思われます。彼もまた天才ってのは認めざるを得ませんな。落語家では喩えにくいけど。

他にもピート・シーガー、ディラン、それからデッドもやってるんだが、大抵はレッドベリーとビル・モンローの流儀に倣っていると思う。

番外編としては、Nathan Abshireっていうケイジャンのアーティストがフランス語(ケイジャンフレンチね)で唄っている"Pine Grove Blues"。これは歌詞を引用してるんだとか。

ジョージアからルイジアナの南の果てまで、口伝で唄が広まったとしたら想像もいろいろ働くが、まあせいぜいラジオで普及したって感じじゃなかろうか。元をたどるとそれは誰にも分からんだろう。

ちなみに

「松林」って書くとどうも銭湯の富士山の絵とセットの盆栽みたいな松や、宮城県の松島を(俺が)思い出してしまってアレなので、ジョージアのthe pinesってのはこんな感じだってことでひとつ。