第四章 名を成した男

ヒップホップ・ジェネレーション 「スタイル」で世界を変えた若者たちの物語について書いてます。

まるごとクール・ハークの章。

いとうせいこうの「東京ブロンクス」や、大神の「大怪我」での冒頭のECDの部分であるとか、ヒップホップの源流をさかのぼろうって人はみな「ブロンクス=ヒップホップの聖地」と感じるかもしれないなっていうのはよく思う。それはもう仕方ないんだろう。それだけこの時代、ヒップホップ黎明期のブロンクスってのは異常なワクワク感がある。

1967年11月に12歳クール・ハーク(本名クライヴ・キャンベル)の家族はジャマイカからNYに降り立った。

クライヴは、カズン・ブルーシー、ウルフマン・ジャックといった、ロックやディスコのラジオDJに心酔し、彼らのスムーズな語り口を聴いていた。また、地元のカソリック・スクールやマーフィー・プロジェクトで開かれていた青少年向けのダンス・パーティ「ファースト・フライデーズ」にも通い出す。さらに、母親に連れられて様々なハウス・パーティにも顔を出すと、WBLSやWWRLでは決してかかることのない音楽を聴いた。テンプテーションズアレサ・フランクリンスモーキー・ロビンソン、そして何よりもジェームズ・ブラウンが、クライヴの師となった。彼らの音楽を聴くことで、クライヴはジャマイカ訛りを矯正していったのだ。(本文より)

クライヴはいろんなことが得意で、学校では超人気者になった。クライヴだけに限らず、彼らの世代は、ちょっと上の世代のギャングたちに対しては「ギャングwww」と草を生やすくらいにバカにした感覚があったようで。例えば1970年の夏にはTAKI183っていうグラフィティの元祖が、そこらじゅうのギャングの縄張りにタグを落書きして。悔しがるギャングを見てはざまあみろと思っていたようだ。

この話だけを見ても、ガキ対お兄さんギャングの闘いは、ガキの勝ちだってことが分かるだろう。暴力による闘いという構図をずらして、スタイルの闘いっていうのかな、なんかこうワケの分からんものにして、大人や年上をおちょくるわけよ。まさにヒップホップそのものっていう態度だと思うんだなこれは。コミュニティ内でのギャングの機能がどのように変化したのかは、この本からは読み取れない。でも。特にギャングのなにが変わったか、ではなくて、要するにこれは単に「世代交代」、生意気な若者、ガキドモが「おっさんw」とバカにしたってだけの話だろう。

意外と見逃せないのは、少年クール・ハークが通っていたクラブで、ジョン・ブラウンというDJが当時かけていた曲。それはRare earthの「Get ready」って曲で、これ12分くらいあるからみんながっつり踊れたんだとか。

ジョン・ブラウンの回していたクラブ「プラザ・トンネル」はつとにギャングにも有名で、ジェームズ・ブラウンの「Soul Power」が流れると、ブラック・スペーズの連中がフロアを占拠して「Spade Power!!」と絶叫していたとか。おおこれは、怖い怖い。ジェームズ・ブラウン公民権運動のニオイがする曲は、当時すでに黒人専用ラジオでもほとんどかからなくなってたらしく、ストリートの音楽だぜーみたいな感じでギャングにもてはやされていたようですな。

クール・ハークが歴史に名を残すとすれば、まずブレイクビーツを作ったことだ。幼い時にジャマイカで見たサウンドシステムの熱気を再現するべく(まず第一に自分のマイクをスペースエコーにぶっこんだってあたりの描写に惚れた!)、父親のシステムを使ってブロック・パーティを始めたのが1974年の夏。人気は大評判で、ギャングからおねーちゃんおっさんといろんな人が集まってダンスしてた。その中でクール・ハークが観察して分かったことは、全員ブレイク(ドラムのソロ部分)で踊りまくるために待っているっていうことだった。だったら2枚使ってブレイクをつなげれば(以下略)。

それではこの章に登場するブレイク集です。

JAMES BROWN & THE JB'S-GIVE IT UP TURN IT LOOSE LIVE 1969

Bongo rock 73 - Incredible bongo band

Johnny Pate - Shaft In Africa

DENNIS COFFEY - SCORPIO

クール・ハークは1976年には超絶人気DJになってて、かつてギャングが分割していたテリトリーを、今度はサウンドシステム、DJクルーが分割するようになった。しかし1977年の夏の大停電の後、機材を盗んだ連中が新たに自分らでパーティを始めたりすることなどもあって、急速にクール・ハークの人気は落ちたそうな。これ因果応報ってこった。若い連中の突き上げくらっちゃったわけだな。そんで1977年のあるパーティで暴力沙汰にあい、キャリアを中断するハメになっちゃいました。というところで一区切り。

ではバンバータから見るとどうだったか。ブラック・スペーズっていうかつての広域ギャングの盃を受けて組長になっていた彼が、ヒップホップにどういう命を吹き込んだか。で次章へ繋ぎます。

第五章 魂の救済