ダグ・サームを追う#1

「テキサスにダグ・サームあり」と認識されるようになったのはいつなんだろう。YouTubeで見る事ができるSDQの「She's About A Mover」の映像は、女子供がキャー、というよりもギャーと、まるで椿鬼奴みたいな声を挙げているんだけれど、あれはテレビ用の演出だと見積もってもやはり人気があったことに変わりはないわけで。

でもロックに限らず、テキサスという自分のルーツに忠実に、人生で耳にして心を動かしたあらゆる音楽をただ演奏してきたのは、これ多分ヒューイ・モーのアドバイスもあったんだろう。音楽家がやるべきこと、それは音楽である。こういうところに誠実さを感じてしまう。ダグ・サームがハチロクの曲でブリブリなダウナー感を醸し出しているのは、正しくブルースを理解していることに他ならない。ブリティッシュ・インヴェージョンの旋風の最中に起こった粗製濫造のバンドの中でデビューしたにせよ、やはり才能があって見識の高い人は残るんだなあ、ということがとりあえず言えて嬉しいな。

ダグ・サームは1941年11月6日テキサス州サンアントニオ生まれ。ガキの頃からローカルラジオ局で演奏し、1952年12月、11歳の時にはテキサス州オースチンであの伝説、ハンク・ウィリアムスとステージに立っているそうだ。Excello、Atlantic、Specialtyといった黒人音楽のレーベルのレコードばかりを隣人のHomer Callahan(彼もカントリーのアーティスト。1912年生まれだからダグにとっては『近所のおじさん』になるのか)と聴き漁っていたという。少年のダグに影響を与えたアーティストは、ざっとT-Bone Walker、Junior Parker、James Brownハウリン・ウルフ、ロンサム・サンダウン、ジミー・リード、ファッツ・ドミノといった感じ。しかしこんだけ黒人音楽大好きッコであったとしても、黒人専門のクラブには近寄れなかったそうな。ととと、大量に黒人スターが登場してしまったな。この辺のアーティストを十把一絡げにしてしまうのはもったいないので、先に進む前にミシシッピ由来のブルースやR&Bをさらっと復習しときたい。

とにかくこの一ヶ月、一週間、ここ2,3日、ダグ・サームに霊感を受けっぱなしなのだ。こんなにカッコいい才能はめったにいない。彼自身の聴いたブルースやスワンプ・ポップ、テハーノはもちろん、ビートルズボブ・ディランの同時代の音も本当にすべて消化している。それでも肝心の彼ららしさは、本当にまったく微塵も、失われていない。僕はバーケイズも好きで、同時代のソウルやファンクをパクってたが本家以上にかっこよい演奏になっているというところが気に入ってたんだが、それとはまた範囲が異なるところで感動しちゃうのだ。バーケイズは黒人グループであったが、ダグ・サームは白人グループであった。そういう差が現れているのか、両者が同様に「パクって本家を超えるバンド」だと仮定しても、取り扱う範囲や深度が異なるのが面白い。

そしてダグ・サームが素晴らしいのは歌でもある。彼の歌ならすべてソラで歌えるようになりたい。そしてフィリピンパブのカラオケでもいいや、そういうところで歌いたい。そんな気分になるバンドなんてなかなかないでしょう。

ダグ・サームを追う#2 - 音楽・脳・アメリカに続く